【前編】2020年東京オリンピックでの自転車競技開催に向け、ギアをあげる伊豆

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【前編】2020年東京オリンピックでの自転車競技開催に向け、ギアをあげる伊豆―自転車競技の開催地となる伊豆半島、サイクリストの聖地を目指す―

(公財)フォーリン・プレスセンター What's Up Japan編集部

ヘルメットを被り、e-Bike(スポーツ用の電動アシスト自転車)のスイッチを入れて、静岡県伊豆市にある狩野川の土手沿いを走り出す。緑に覆われた山々を背景に、わさび田や太ももまで川に浸かって鮎釣りの糸を垂れる釣り人達を眺めながら、気ままなサイクリングが始まる。

狩野川沿いのサイクリングルート ©ROB GILHOOLY PHOTO

快晴の日には、駿河湾富嶽三十六景の一つにもなっている富士山の姿をここから臨むことができるんですよ、と72歳にして溌剌としたガイドの後藤順一さんが解説してくれる。

このサイクリングコースは狩野川周辺にいくつもあるルートの一つで、地殻変動の遺物を見ることができる。後藤さんいわく、大昔にまだ独立した島だった伊豆が、地殻変動によって本島にぶつかり一体化していった名残で、南に向かって流れる静岡県内の他の川とは異なり、狩野川は不思議なことに北に向かって流れているのだという。

「目標は伊豆を日本の自転車の聖地にすることです」と熱く語るのは、伊豆市の中心地にある修善寺駅前で市営のレンタサイクル「いずベロ」を管理する後藤さんだ。「来年のオリンピックで、伊豆のサイクリングをより多くの人に知ってもらいたいですね。」

後藤順一さん。©ROB GILHOOLY PHOTO

その思いは、すでに形となりつつある。ここ数年、伊豆市と周辺自治体が民間企業と協力し、多くのサイクリングルートと必要なインフラ整備を組み合わせる取り組みを進めている。

その結果、東京から南西に2~3時間の場所に誕生したのがサイクリングの楽園だ。ここでは、太平洋に突き出る伊豆半島の美しく変化に飛んだ自然環境を心ゆくまで楽しむことができるのだ。

実際のところ、伊豆とサイクリングは馴染みのない組み合わせではない。1965年には、自転車をテーマにしたアミューズメントパークと競技用のレーストラックとが合わさった日本サイクルスポーツセンターが温泉地として名高い修善寺(現伊豆市)に誕生した。

その3年後には、日本で唯一の競輪選手養成所がそこから2kmの距離に開校し、2011年には日本サイクルスポーツセンターの敷地内に日本初の自転車競技場、伊豆ベロドロームが完成した。(また報道によると、今年競輪選手養成所内にも新たに別のベロドロームができたことで、伊豆市は世界の市町村のなかで唯一2つのベロドロームを有するまちになったとされる。)

伊豆市にあるベロドローム ©ROB GILHOOLY PHOTO

2000年代はじめ、「伊豆といえばサイクリング」というイメージが確固たるものになっていった。2005年には国内最大規模の国際自転車ロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」の伊豆ステージが開催されるようになった。さらに、伊豆市はこれに合わせ、同日に、子どもから大人までが自転車に親しめるイベント「サイクルフェスティバル伊豆」を開催するようになった。

伊豆市職員の渡邊麻友さんは「これらの施設の存在は、地元以外ではまだあまり知られていません。でも、東京のオリンピック・パラリンピック大会関係者の目に留まったのです」と語る。

「2020年のオリンピックに向けて(東京に)仮設のベロドロームを建設する計画があったのですが、東京の大会関係者と国際オリンピック委員会との協議の結果、伊豆ベロドロームであればコストダウンができるということで、ここに決まったのです。」

そう説明する渡邊さんによると、伊豆ベロドロームでは全国大会も開催されたことがあり、250mの木製トラックは国際基準を満たしているという。また、現在座席数を増やす作業が行われているとのことだ。

伊豆ベロドロームの木製トラック ©伊豆市
 

また、日本サイクルスポーツセンターにはマウンテンバイクのコースも整備されており、2020年オリンピックのマウンテンバイク競技会場にも含まれているとのこと。

地元の行政と民間企業も、競技会場に選ばれたことによる注目度を活かして、この地域の豊かなサイクリング環境と文化の可能性を最大限に引き出したいと前を向いている。

地域内に3つ施設で自転車がレンタルできるほか、伊豆市と周辺自治体が協力して、難易度別のバラエティ豊かなコースを紹介している。誰にでも分かるよう工夫されたサイクリングマップと共に、路面に塗装された青い矢印(矢羽根)のマークがルートを示してくれる。

自転車通行ルートを示す青い矢印 ©ROB GILHOOLY PHOTO

また、官民一体となって新たな地域振興事業に取り組む観光協会、美しい伊豆創造センターの八木昂一さんによると、公共施設や公園、コンビニやカフェ、レストランをはじめとする民間施設など170か所を超える「バイシクルピット」が整備されており、自転車ラックや空気入れ、修理キットを提供している。さらに自転車用チューブなどの部品を購入することができる自動販売機「サイクリスト応援自動販売機」もルート沿いに設置しているという。

バスや電車は自転車ラックを設置しているほか、地元のタクシー会社も同様に一部の車両を改造していると八木さんはつけ加える。

伊豆エリアに170以上設置されている「バイシクルピット」 ©ROB GILHOOLY PHOTO

台湾の自転車メーカー、メリダも、同社の自転車全種類を試せる拠点、「X Base」を伊豆の国市に最近オープンさせた。

また、伊豆エリアに3つあるサイクリスト向け宿泊施設の一つである「コナステイ」も、伊豆の国市にある。施設の各部屋には、自転車の修理スペースや自転車ラックが備え付けられている。

「外国からのお客様がますます増えていて、200kmの伊豆コースを走られる方が多いです」とコナステイの土屋勇貴さんは言う。「オリンピック開催中やその後も、もっと多くのお客様に来て頂きたいですね。」

コナステイの土屋さん。伊豆のさらなる盛り上がりを望んでいる。 ©ROB GILHOOLY PHOTO
「コナステイ」の一室。自転車ラックが備え付けられている。 ©ROB GILHOOLY PHOTO

―――――【後編】へ続きます!

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