
文化・観光・食開催地
【後編】2020年東京オリンピックでの自転車競技開催に向け、ギアをあげる伊豆―自転車競技の開催地となる伊豆半島、自転車愛好家のメッカを目指すー
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伊豆半島の多彩なコースラインナップの中でも、走行距離200kmの伊豆半島一周コースは自転車愛好家がこぞって目指す憧れのルートであり、約11時間かけて一日で回り切る場合もあれば、途中で「コナステイ」のようなサイクリスト向け宿泊施設での休憩を挟みながら完走することもある。
合計の標高が富士山(3,776m)に匹敵するほど起伏のあるこの伊豆半島一周コースは、官民で地域振興に取り組む観光協会、美しい伊豆創造センターと地元スルガ銀行が共同開催する毎年恒例のサイクリングイベント「伊豆いち」で設定されている5つのルートのうちの1つだ。
歴史情緒溢れる下田を起点に海岸線を走る比較的ゆったりとした50kmのコースから200kmのルートまで、幅広い選択肢がある。そこでは、西岸の黄金の砂が輝くビーチや東岸の荒々しい断崖絶壁、内陸の緑豊かな山々、滝の流れ、そして浸食された火山など、心を揺さぶる素晴らしい景色の数々を見ることができる。
さらに、このあたりでは、豪勢な海産物やキットカットわさび味といったちょっと変わった特産品などの地元グルメはもちろんのこと、サイクリング後の癒しとして伊豆市の修善寺をはじめとする数々の温泉地が待っている。美しい伊豆創造センターとスルガ銀行が主催するサイクリングツアーに参加すると、温泉や修善寺周辺で利用できる割引券をもらえるのだ。
スルガ銀行サイクリングプロジェクトのリーダー深田聡明さんによると、10月開催の「伊豆いち」に加え、2019年には50ものサイクリングイベントが予定されている。これらの企画は、美しい伊豆創造センターが「サイクリングリゾート伊豆」という旗印を掲げて取り組んできたこの地域のサイクリングツーリズムを、さらに発展させていくことを目的にしているという。
8月1日、走行距離90kmの「西伊豆ライド」の参加者を前に、深田さんは「伊豆は本当に豊かで様々な表情が見られるサイクリング環境なんです」「そして、初心者用から上級者用までどんなレベルのコースもあるんです」と語った。この「西伊豆ライド」は、自転車の元オリンピック代表の田代恭崇さんがリーダーを務めるもので、スルガ銀行の旧店舗を活用したキッチンや更衣室、金庫をも完備する「サイクルステーション」(伊豆市内に3店舗あるうちのひとつ)からスタートした。

深田さんの言葉を裏付けるのが狩野川エリアだ。8kmから94kmまで約10ものサイクリングコースが整備されており、94kmのコースは伊豆市から沼津まで狩野川の全長をカバーしている。途中には、息をのむ美しさの浄蓮の滝を眺めることもできる。
温泉と修善寺がある場所として歴史を感じられる修善寺のまちを訪れる人もいる。修善寺は9世紀初期に仏教の僧侶である空海により建立されたといわれる寺だ。空海は仏教の宗派の一つである真言宗を創設した人物だ。空海は学者であり詩人でもあり、一説によると「かな」と呼ばれる日本独自の文字を考案したとされる。
伊豆半島のすべてのサイクリングコースが道路上にあるわけではない。地元のマウンテンバイク愛好家である松本潤一郎さんは、最近「山伏トレイル」と名付けたコースを西伊豆の山中に整備した。しかしこの道は決して新しいものではない。約1200年前、ここは商人たちが海岸部と山間部を行き来して品物を運ぶ、商業のルートだったのだ。しかし年月が経ち、自動車が普及していつのまにか自然の姿に戻ってしまっていた。
松本さんは同じ思いを持つ仲間たちと共に時間をかけて古道の整備を進め、現在ではどんなレベルのサイクリストでも楽しめるよう、7つのコースを用意している。
「みんなのためのサイクリング」が伊豆エリアが掲げるモットーだ。難関の上り坂にはサイクリストが自転車を載せて利用できるように改修されたバスや電車が走っているほか、e-Bikeが借りられるレンタルショップもあり、地元行政はこれらの動きを重視している。

気軽にサイクリングを楽しむ観光客を増やすことが、自転車の聖地なのに地元市民の自転車の利用が少ないという残念な現状を変えることにもつながると期待されている。地元でのオリンピック・パラリンピック開催に向けて準備を進める伊豆市職員の梅原雄児さんによると、全国調査のデータは伊豆市の人口の2%しか自転車を使っていないことを示しているという。
梅原さんは「調査によると住民の69%が自家用車を利用していて、自転車を使う人はあまりいません。車が唯一の移動手段という考え方になってしまっているのは悲しい現状です。」と語る。
伊豆市は、市営のレンタサイクル「いずベロ」のような取り組みが、外から訪れる観光客を取り込むだけではなく、地元の人たちが自転車を乗る機会を増やせるのではないかと期待している。「この事業の主眼は、伊豆を、外から訪れる人と地元の人の両方が自転車に親しむ、バイシクルフレンドリーな地域にすることなのです。」
