<北海道と五輪・パラリンピック 第1部 担う 支える>3 文化プログラムに命を吹き込む

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<北海道と五輪・パラリンピック 第1部 担う 支える>3 文化プログラムに命を吹き込む

北海道新聞社
<2019年12月14日、長野>巨大人形のパーツを前にして相談し合う人形師の沢則行さん(右)とスタッフの大池ひとみさん(中央)、嶋崎陽さん(左)=長野県高森町アグリ交流センター。東京報道酒井記者担当、守屋裕之撮影

 南アルプスを望む長野県高森町の作業場で「モッコ」が命を吹き込まれていた。「人形劇のまち」として知られる飯田市など近郊の住民らが太さ1センチの鋼材や竹で腕、胸などの骨組みをつくり、布をつけていく。組み立てると10メートルを超える操り人形になる。「日本最大級。世界でも珍しい」。製作の指揮を執る小樽市出身の人形劇作家沢則行さん(58)はそう言って、続けた。「この規模の人形を作れるのは、この地域と北海道の仲間ぐらいだ」

 モッコは東京五輪・パラリンピック組織委員会が掲げる「復興五輪」の理念のもと、5月から東北4県の催しに登場する。住民ら30人ほどが目や口、手などにつながった綱を引く壮大な人形劇を通じ、立ち直ろうとする東日本大震災の被災地の姿を世界へ発信する。

 沢さんが東北の児童のアイデアなどに着想を得て設計した。目の虹彩は切り絵、体を覆う布の一部には東北地方の伝統文様をあしらう。ひょうきん者を意味する宮城県の方言「おだづもっこ」が名前の由来だ。

■巨大人形劇

 五輪は「文化の祭典」でもある。五輪憲章はスポーツを文化、教育と融合させることをうたい、複数の文化イベントを義務づける。一連の行事や交流は「文化プログラム」と総称され、東京大会では「NIPPON フェスティバル」が3~9月に各地で行われる。モッコは目玉の一つだ。

 札幌市で育った沢さんは、人形劇文化が華やぐ東欧チェコを拠点に各国で活動する実績を評価され、総指揮の就任を依頼された。

 高森町でのモッコづくりには道内の人形劇作家らも交代で参加している。最も多い札幌市は、全国初の公立人形劇場「こども人形劇場こぐま座」(中央区)を1976年に生んだ全国屈指の人形劇のまちでもある。

 現地に移住して専従スタッフになった若者もいる。道教育大岩見沢校で美術を専攻した嶋崎陽(あき)さん(24)、大池ひとみさん(24)。2人は2014年から4年間、高さ7メートルの馬を操る巨大人形劇「岩見沢人」に参加し、演出と総監督を務めた沢さんに学んだ。「東京五輪に参加できるのがうれしい」と口をそろえる。

 「4年間も巨大人形を作った人は全国でもまれ。慣れない土地で愛着を持って頑張っている。北海道の開拓者精神ですかね」。スタッフ仲間の寺沢宏昭さん(60)は2人が頼もしい。

■トップは道産子

 文化プログラムなら、競技会場がない地域の人たちも五輪を堪能できる。東京大会の「NIPPON フェスティバル」を率いているのは、実は道産子だ。

 岩見沢市出身の57歳、佐藤直樹組織委アクション&レガシー担当部長(文化担当)は東京都の要職を歴任し、13年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で東京招致の瞬間をアルゼンチンの現地で見た。都職員となったのは「世界とつながる首都で働き、日本の良さを発信したかったから」。17年から組織委に出向し、「初志を果たす」という気概で臨む。

 五輪への思いは強い。空知管内栗山町に住んでいた小学3年生のとき、72年札幌冬季大会があった。開幕直前に札幌を訪れて買った記念メダルは宝もの。栗山町が吹雪に見舞われて観戦を諦めた日のことをはっきり覚えている。

 フェスティバルにはモッコを含む四つの主催プログラムのほか、自治体などとの共催プログラムもあり17事業が決定した。全国を網羅するため組織委は40~50まで増やす方針だが、道内は未定。「北海道の多くのみなさんに五輪に参加する機会を提供したい」。五輪を味わいきれなかった、かつての少年の大仕事は佳境を迎える。(酒井聡平)

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この記事は、東京オリンピック・パラリンピック延期決定前に北海道新聞に掲載された記事(2020年1月4日)を著作権者の許諾を得て転載したものです。

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