秦野の木々が、2020年東京オリンピックでアスリートたちを支える

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秦野の木々が、2020年東京オリンピックでアスリートたちを支える

(公財)フォーリン・プレスセンター What's Up Japan編集部

「倒れるぞー!」という大声に続き、木がミシミシと音を立てて折れ、最後にドシンと地面に倒れた。その様子に子供たちの歓声が響き渡る。

教師や秦野市の森林担当者らの指導の下、6名の子供たちは各々ノコギリをケースから取り出した。コースターとして家に持ち帰るために、木を円盤状に薄く切ろうと一生懸命だ。

彼らは神奈川県にある秦野市立北小学校の生徒たちだ。生徒の一人は「腕が痛いよう」といいながらも檜を切ろうとノコギリの刃と格闘している。別の生徒は「すごくいい香り」と、自分の頑張りに誇らしげだ。

6年生の約30名が20191129日に行われたこのプロジェクトに参加した。この取り組みは、秦野の最も重要な財産である森林に対する意識を高めるために、約半世紀にわたって毎年続けられている。

2019年11月29日、神奈川県秦野市。北小学校の森林教育 ©ROB GILHOOLY PHOTO

2020年東京オリンピックパラリンピック組織委員会は、アスリート用ショップやカフェ、メディアセンターを設置する、選手村内の「ビレッジプラザ」の建設に、日本全国から集めた木材を使う事業「日本の木材活用リレー~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」を進めている。この事業に使われる木材が9月に秦野のこの森から出荷されたことで、いま秦野市の取り組みは一層活気づいている。

秦野市の担当者、服部聡さんによると、秦野の林業の長い歴史、そして林業に関する教育や持続可能性の追求に力を入れてきたことが、市が「日本の木材活用リレー」事業に参加する根幹にあるという。

選手村内につくられる「ビレッジプラザ」の内観イメージ ©Tokyo 2020 (※上記イメージは、計画途中のものであり、今後変更となる可能性があります)

「この事業のキーワードは『持続可能性』でした。私たちは秦野市の木材の背景にある歴史のストーリーを伝えようと知恵を絞りました」と秦野市環境共生課、森林担当の服部さんは語る。

このストーリーの起こりは、何世紀も前から秦野の人々が豊かな森林を守り育ててきたことにさかのぼる。東京都心からわずか60kmの場所に位置しながらも山々に囲まれた秦野は、その104平方キロメートルの面積のうち53%を森林が占めている。

服部さんによると、江戸時代(1603年~1868年)から、秦野の森林から採れる木は建築材と木炭の両方に使われてきた。落ち葉は堆肥用に集められ、野菜や葉タバコといったなどの幅広い農作物の生産に使われていた。なお、秦野は葉タバコの日本の3大生産地の一つに数えられていた。

この営みは20世紀に入っても続いた。そしてその頃には「学校林」のため、約27,000本の杉や檜を植える植林事業も行われた。当時の学校林の目的は、北小学校をはじめとする学校の校舎の建て直しの際の材料を供給することだった。日本中の学校や寺院などの建物と同じように、校舎は伝統的に木造だったからだ。

しかし、北小学校の平井健一校長によると、第二次世界大戦後に日本の近代化が進むと、同校の校舎は、他の多くの学校と同じく鉄筋コンクリート造に生まれ変わってしまった。

戦後の近代化は、工業化と経済成長の時代をもたらした一方、秦野の農業は著しく衰退した。東京や横浜への距離が近いことや、新たな産業の発達によって、2005年の秦野の人口は1950年の3倍以上の167,000人に増加した。しかし、林業と農業に関わる人の数はわずか1,866人となり、労働人口の2.4% にまで下落することとなった。

秦野市の木材への国内需要も低下した。この傾向は神奈川県全体でも同様で、政府の統計によると、県の木材生産量は1970年の117,000立方メートルから2016年の32,000立方メートルへと減少した。

秦野市の服部さんによると、オリンピックの「日本の木材活用リレー」事業が発表されるより以前から、秦野市は林業の衰退という課題に取り組んできたという。

秦野市はこれまで、建設事業での地元産木材の活用を促進するほか、もう一つの重要な地域の宝である子ども達の意識を高める活動をしてきた。2013年には北小学校などの学校で使われる机を地元産の檜の厚板で改修するプロジェクトを始めた。

©秦野市

この取り組みは、北小学校の「学校林」が建築材を育てる場所としての役割を終え、学びの場所として生まれ変わった時に始まった、森林教育プログラムの延長線上にある。

秦野市内の高台にあるこの学校林こそが、子供たちが11月に森の「間伐」に参加した場所だ。間伐には木々の過密を減らして自然光や水の供給を良くし、より強度の高い木々を育てる効果があるとの研究がある。

この森林教育プログラムは、都市をうるおす莫大な量の地下天然水を維持するという森林が果たす重要な役割を子供たちに教えることも目的としている。この地下水が、市内20箇所以上の湧水地を通じて何世紀にもわたって地元の人々に1日に数千トンもの水を供給してきたのだ。

秦野は太平洋の目と鼻の先の場所にある。そこで平井校長は、この教育プラグラムを、あまり知られていない大地と海の生態系の間の密接な繋がりについて子供たちに伝える一歩にもしたいという。

「第一に、森林が果たす役割、そして森林を保護し育てることの重要性を子どもたちに感じてもらいたいんです」「秦野の森とオリンピックをつなぐことで、子どもたちの活動が、地域に対してのみならず、さらに大きな範囲に対して意味を持つことだと伝えることができたと思います」と平井校長は語る。

<後編へ続く:2020年1月中に発表予定>

神奈川県秦野市の森林から望む風景 ©ROB GILHOOLY PHOTO

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