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日本建築のルーツである「木材」、復活に光―オリンピック選手村「ビレッジプラザ」、日本全国の木材で建設<後編>ー
—– 前編「秦野の木々が、2020年東京オリンピックでアスリートたちを支える」はこちら
ーー以下後編ーー
神奈川県秦野市、北小学校の取り組みには、子どもたちが秦野の森を守り育てる人々に直接会い、彼らの仕事について知る機会をつくるという狙いもある。子どもたちへの森林教育に携わる人々のなかには地元の森林組合のメンバーもいる。
「森林管理の伝統は代々受け継がれてきたものなんです」と語るのは、このプロジェクトのリーダーで、小学校がまだ木造校舎の時代に生徒だった杉崎貞夫さん(72)だ。「東京オリンピックの国産木材活用事業は、厳しい現状にある林業に一筋の光を与えてくれています。」

秦野産木材に対する需要の低下は日本中の林業現場で見られる傾向だ。1950年代後半以降、国内の生産地は東南アジアや北米等から流入する安価な輸入材の陰で存在感が薄れていった。
しかし、その傾向は続く一方で、近年の政府の報告書は、国産の木材に全く希望がないわけではないということを示している。
最近発表された政府のデータによると、国産木材の供給量は過去最低の1,690万立方メートルとなった2002年に底を打つと、その後は安定して増加。2018年には3,020万立方メートルにまで回復している。
これは、日本の木材自給率が90%に達していた1957年の水準(7,100万立方メートル)の半分以下だが、それでも2002年に18.8%にまで落ち込んでいた木材自給率が、2018年には36.6%に達している。
無論、輸入される木材量は依然として多い。2018年の輸入木材の量は5,230万立方メートルで、2009年(4,650万立方メートル)に比べて12.5%増加している。別の政府の報告書によると、世界の木材消費量も増加傾向にある。
この報告書は、2013年以降、日本の木材輸出が伸びていることも示している。 2017年には前年比23.7%増の約262万立方メートルが輸出され、さらに2018年の輸出量は前年比8.3%増となる284万立方メートルを記録している。
収入で見ると、輸出の伸びは2017年には日本に約326億円をもたらしている。つまり2010年の3倍以上の増加だ。
主な輸出先は中国だ。中国の木材の輸入依存度は2013年から2017年の間に8ポイント増加し、56.4%に達している。 2017年には中国国内の森林の商業利用の禁止が発表されており、中国の木材輸入は今後さらなる増加が予想されている。
木材の未来は明るいと信じる者もいる。2020年オリンピックの目玉である木材をふんだんに使用した新しい国立競技場をデザインした世界的建築家・隈研吾氏は、メディアのインタビューの中で「木造ルネッサンス」がすでに始まっていると述べている。
それが本当なら、日本は、「3K」(=きつい・汚い・危険)仕事として林業が敬遠されてきたことによる若手従事者の不足を解消する必要がある。これは、業界が長年抱えてきた深刻な問題だ。
しかし、この分野でも変化を暗示する報告書がある。国勢調査によると2015年の林業従事者は47,600人で、1990年(100,497人)に比べ53%減だ。その一方で34歳未満の林業分野での被雇用者数は増加しており、1990年には全体の6.3%だったが2010年には17.9%にまで上昇している。
若い林業従事者が増えた主な要因として、国や地方自治体レベルで取り組んできた国産木材の新たな活用法を探る努力が挙げられる。
国産木材の消費は、2019年7月に開催された全国知事会で話し合われた議題だった。国産木材活用プロジェクトチームのリーダーである東京都知事の小池百合子氏は、「国産木材の国内供給量や海外輸出が増加している」大きな流れに対応する新たな施策を地方自治体が打ち出すための10の取り組み方針を発表した。
この動きは、2020年までに木材自給率50%を達成するという日本政府が掲げる目標の達成に大きく貢献するものと考えられる。この目標は国土の3分の2を森林が占め、その40%が人工林で利用期を迎えているこの国にとっては十分実現可能だといえる。
木材のこれまでにない新たな利用法にも注目が集まっている。例えば2019年の東京モーターショーでは日本政府が木製の構造部品で作られたスーパーカーを発表した。まさに未来の車だ。
そして、オリンピックにおける持続可能性事業「日本の木材活用リレー」は、秦野とその他公募で選ばれた全国62の木材生産地の大きな後押しとなっている。440,000平方メートルの広さの東京の選手村への木材供給量は、全部で2,000立方メートルにも上る。

使用される一つ一つの木材にはレガシーになるように各自治体の印がつけられている。オリンピック終了後に解体された後は、再利用のため各自治体の元に戻される。
面白いことに、木材を提供した山形県のある自治体では、その木材で小学校を建設する計画があるという。
一方、秦野市役所の服部さんによると、木材がオリンピック選手村から戻ってきた後の最終的な使い道を秦野市はまだ決きめていないという。 「子どもたちがこれだと思う目的に活用できたらと考えています。 なんといっても子どもたちの木材ですから、そうするのが一番だと思います。」