開花する北海道の雪利用技術、東京五輪の暑さを迎え撃つのに準備万端

課題への取り組み開催地

開花する北海道の雪利用技術、東京五輪の暑さを迎え撃つのに準備万端

(公財)フォーリン・プレスセンター What's Up Japan編集部

真夏の日本。東京では35度とうだるような気温が続く中、高級店が軒を連ねる銀座の大通りに幾つもの雪の塊が出現した。うちわを片手に浴衣(日本の伝統的な夏用着物)を着て歩く人など通行人たちは、ケイタイでその雪を撮影しようと足を止めていた。束の間の自然の涼しさにはしゃぎ、雪合戦を楽しむ小さな子どもたちの姿もあった。手一杯に掴んだ雪を額や首に当てて「気持ちいい」という子もいた。

真夏に珍しい雪を思わず頬にあてる女の子。 ©ROB GILHOOLY PHOTO

 

通りのさらに先には、非日常の光景がもうひとつ広がっていた。満開の桜が咲いていたのだ。喜ぶ銀座の買い物客によって写真撮影の行列ができた。「夏だというのに、こちらには春が、あちらには冬があるなんて」と撮影の順番を待つトマミサエさんは答えた。

雪も桜も、日本の最北端の北海道から東京に運ばれてきたものだ。地元の自治体と民間企業が一体となり、雪と桜という北海道の風物詩への認知を高めようとこのプロジェクトに取り組んでいるのだ。

北海道は雪と桜で有名だ。長い冬の間には降雪量が1000cmを越える地域がある一方、4月下旬から5月下旬の花見シーズンには数百種類もの桜を見に花見客が訪れることで知られている。

自治体と企業でつくるこの北海道雪氷桜プロジェクト実行委員会は、2月に桜の枝を集め、雪を利用して冷やした倉庫で冷蔵保管。7月下旬に雪の倉庫から取り出して東京へ輸送し、イベントのタイミングに合わせて開花させたのだ。

実行委員長の越智文雄さんの話によると、銀座で桜と雪を展示するこのイベントは、蒸し暑い夏の時期に東京の人々に一時の涼を提供することを目的とした検証実験の一部だという。

「今回のイベントは、真夏の東京の屋外で展示がちゃんと実現できるかどうかの実験でした。来年、同じく真夏の蒸し暑い時期に開催される東京オリンピックの時にも同じことができたらと。皆さんに涼しさを運んであげたい、なおかつ北海道の技術で北海道流のおもてなしの心を見せてあげたいというのが元々の発想でした」と越智さんは語る。越智さんは、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指して省エネルギー照明機器を提供する、あかりみらい株式会社という会社の社長でもある。

人間だけでなくペットからも好評な北海道の雪 ©ROB GILHOOLY PHOTO

 

越智さんたちの団体では、マラソンコースに沿って北海道の雪を並べたいと希望しているほか、コースの一部となる銀座で沿道の観客が日本の象徴である桜の枝を振って選手を応援するという企画の実現も目指している。

越智さんの話によると、来年8月2日の女子マラソン、8月9日の男子マラソンの開催に合わせて、道内の全179市町村から約1万7900本の枝が提供できるよう手はずは整っているという。

「東京オリンピック組織委員会にプレゼンしたのですが、半分冗談で、その倍くらい提供できますかと言われました。なぜかというとオリンピックだけではなくてパラリンピックでも使うからと。もちろん北海道の技術でご用意できますよ、とお答えしました」という越智さんは、聖火リレーが2020年6月中旬に地元の北海道を巡る際に、沿道の観客が桜の枝を手に応援できるよう配布することは既に確定していると付け加えた。

北海道流のおもてなしで東京に涼を届ける越智さん。©ROB GILHOOLY PHOTO

 

北海道の企業や研究者たちは、雪を代替エネルギーとして利用するための道を長年模索してきた。

現在までに、冷房用の新たなエネルギーとして雪の利用が成功しており、北海道にあるデータセンター等の冷却設備に使われている。また、雪を利用したエアコンは、北海道の西部に位置する美唄市の老人介護施設にも導入されており、集合住宅における世界初の利用事例となっている。また同種のシステムは、北海道最大の都市・札幌市にあるモエレ沼公園施設内にある芸術性の高いモニュメント「ガラスのピラミッド」の冷房にも活用されている。

また北海道では、雪冷房設備が野菜などの農産物の貯蔵にも使われており、熟成を制御し豊かな風味を維持するのに役立っている。北海道の南東部に位置する音更町のマンゴー農園は、夏の期間に雪を利用して冬の環境をつくってマンゴーを育て、他の産地が出荷できない時期に実を収穫し、付加価値のついたマンゴーとして販売している。

雪の多い北海道の地で雪の利活用に向けた研究が重視されてきた背景には、除雪にかかる費用の問題がある。2018年の札幌市の雪対策予算は20億円(1億8900万米ドル)を超え、前年度比44%増にも上った。

氷雪桜プロジェクトは、2008年のG8洞爺湖サミットで初めて考案され、実施された。越智さんは、このアイデアが北海道に環境に優しい新たな産業を生み出すきっかけになると考えたのだ。越智さんによると、北海道の桜の木は毎年2月に剪定され、そこで出たたくさんの枝が処分されている。「自然破壊、環境破壊じゃなくて、捨てられるはずだった自然の恵みを取っておくんです。雪を使うことで、簡単に時間をコントロールすることができる。北海道の自然から新たな文化を創造できるのです。これは誰もが取り組める、いいことずくめのアイデアなんです。」

銀座を歩く人々の間でプロジェクトの評判は上々だ。横浜の自宅から銀座に来ていた渡辺百合子さんは「雪というと普通は邪魔者ですが、こんな風に有効に使えるならいいですね。雪をエネルギーとして活用するというのは地球にも環境にも優しい。素晴らしい発想だと思います」と話した。

東京に桜を持ってくるという案も好評だ。マツザキミカさんは、「夏に桜というのはちょっとへんな気もしますけど、日本の象徴だからオリンピックの時に使えたらすごく良いと思います」と言い、聖火リレーのトーチが桜の形をイメージしてデザインされていることをあげ、「聖火リレーの時に沿道の人たちが本物の桜で応援したらぴったり。最高の組み合わせになると思いますよ」と語った。

真夏に桜と写真撮影ができる企画は大人気だった ©ROB GILHOOLY PHOTO

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