サーフィンのまちの子どもたちが学ぶ、 海洋プラスチックごみ問題

課題への取り組み開催地

サーフィンのまちの子どもたちが学ぶ、 海洋プラスチックごみ問題

(公財)フォーリン・プレスセンター What's Up Japan編集部

東京都心から約70キロに位置する千葉県一宮町は、太平洋に面し、その良質な波を求めて年間60万人ものサーファーが訪れるサーフィンの聖地だ。なかでも、釣ヶ崎海岸の波は「世界最高レベル」といわれ、2020年の東京オリンピックで初めて公式種目に採用されたサーフィンの競技会場に選ばれている。

一宮の海でよくサーフィンをするという東京のサーファー(右)と、 フランスから来たサーフィン仲間(左) ©FPCJ

人口12,450人のこの自然豊かな町にはサーフィンを目当てに移住してくる家族も多く、「サーフィンと生きる町。」として、海岸の清掃活動が町をあげて行われてきた。オリンピック会場に選ばれたことをきっかけに、町は一層次世代の環境教育に力を入れており、2018年には、国際オリンピック委員会(IOC)の呼びかけで、プラスチックごみによる海洋汚染を減らす国連の活動「Clean Seas」に日本の団体として初めて参加。その一環で、町は中学生に向けて、プラスチック環境汚染研究の第一人者による講演を開催した。

中学生たちが学ぶ海洋プラスチックごみの深刻な問題

夏休み直前の2019年7月中旬、一宮中学校の1年生(12歳~13歳)94人は、東京農工大学の高田秀重教授の話に真剣な表情で耳を傾けていた。高田教授は、直径5ミリ以下の「マイクロプラスチック」が海洋に及ぼす影響を世界に先駆けて調査してきたことで知られている。

高田教授は、路上に捨てられたレジ袋などが雨で流され、川から海に運ばれて汚染が拡がる仕組みを説明。高田教授によると、海に出たプラスチックごみは紫外線や波の力によって劣化して細かな破片になり、微細なマイクロプラスチックとなるが、小さいため回収が難しい。世界の海を漂流するプラスチックの数は50兆個以上で、流れるうちに海水中の有害化学物質を吸着したり、有害な成分が溶け出しやすくなってしまうという。高田教授は、実際に魚の体内から検出されたマイクロプラスチックの写真を見せながら、魚や鳥がそれを食べ、食物連鎖を通じて生態系の隅々に広がっているとし、魚を食べる人間の食の安全性への懸念にも触れた。

高田教授による講演。熱心にメモを取る生徒の姿もあった ©FPCJ

高田教授によると、日本では年間227億本ものペットボトルが消費されており、回収率は88.8%と高いものの、残りの25億本が未回収で、海洋プラスチックごみの一因となっている。高田教授は、「リサイクルよりも、まずは使い捨てのプラスチックを使わないことが大事。マイバッグやマイボトルを持ち歩くことから始められる。それが、海や皆さんの身体を守ることにつながる」と呼びかけた。

使い捨てられたプラスチックが、やがて微細化していく ©FPCJ

講演を聞いた生徒の小髙藤子さんは、「海洋プラスチックというのは聞いたことがありましたが、どんな影響があるかは知りませんでした。海だけではなく人間の健康にも影響があることに驚きました。いま自分たちができることを考えたいです」と語った。

オリンピックを機に子ども達に伝えたいこと

今回の講演を企画した一宮町の馬淵昌也町長は、「子どもたちに、大量生産・大量消費が私たちの環境を損なうことに気づき、自分たちの一挙手一投足が環境に関係していることへの自覚を持って欲しい」と語る。町長によると、中学3年生からは、オリンピックに向けて、街から海までの間に落ちているごみを拾うという提案が出ているという。「開催が近づき、子どもたちにも当事者意識が出てきている。訪れる人をおもてなししたいという気持ちも生まれてきたようだ」、「大人になったときに、オリンピック・パラリンピックを通じて学んだことを思い出してくれたら嬉しい」とその思いを語った。

一宮町長の馬淵昌也氏。アジア哲学の研究者から町長に ©FPCJ

町じゅうで取り組む海岸清掃。海への感謝の気持ちが背景に

一宮町ではこれまでも地道な環境保全活動が続けられてきた。町役場は、河川の水質向上を目的にペットボトル再生繊維を使った家庭用水切りごみ袋の配布を行っているほか、「クリーンアップウォーキング大会」と題して市民が家族や仲間とチームを組んで参加する海岸清掃イベントなどを開催してきた。さらに、役場だけではなく、市民、大学生、企業など民間の9つもの団体がボランティアで定期的に海岸清掃活動を行っている。

2015年には、一宮町の呼びかけで、サーフィンが盛んな国内の自治体が首長連合を設立し、2020年のオリンピックでサーフィンが競技種目に採用されるよう応援するキャンペーンを展開したが、その一環で、「1万人ビーチクリーン活動」と題し、全国29の市町村で市民による海岸清掃活動も行われた。今回のオリンピックでサーフィンが初めて正式種目となったが、その裏にはこんなストーリーもあったのだ。

10年近く夫婦で一宮の海に通い、海岸清掃に参加しているという地元サーファーの女性(50歳)は、「いつも海に入らせて貰ってお世話になっている、楽しませて貰っているという海に対する感謝とリスペクトの気持ちを持って清掃活動に参加している。私だけではなく、多くのサーファーが同じような気持ちで清掃していると思う」と語った。

町主催の海岸清掃イベントの様子 ©一宮町

 <取材先情報>
一宮町役場 秘書広報課  
E-mail:hishok[at]town.ichinomiya.chiba.jp
https://www.town.ichinomiya.chiba.jp/

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