ロボットがバレーボール日本代表チームに手を貸す

日本の技術力開催地

ロボットがバレーボール日本代表チームに手を貸す日本最大の研究拠点都市であるつくば市(研究者人口2万人)の筑波大学が、オリンピックに向けて頼れる解決策を提供

(公財)フォーリン・プレスセンター What's Up Japan編集部

授業中に先生の気を引きたくて手をあげる小さな子どもたちよりも早いスピードで手があがった。この光景が見られるのは教室、ではなく、東京にあるナショナルトレーニングセンターの中だ。そして手をあげているのは、目をキラキラ輝かせている子どもたちではなく、バレーボール選手の練習に手を貸す多肢ロボットなのだ。

この「ブロックマシン」と呼ばれるロボットは、バレーボールの試合で味方チームが打ったアタックやスパイクを「ブロック」する、対戦相手チームの選手役として設計されたものだ。

タブレット端末で遠隔操作されるロボットの手は、ネットに沿って設置されたレールの上をビューンという音を立てながら、人間の選手よりも速い1.1秒という反応速度で自在に動く。

ブロックマシンの研究リーダーである筑波大学(茨城県)の岩田洋夫教授によると、ブロックマシンは、2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した女子バレーボール代表チームのさらなる強化を目的に作られたものだ。

岩田教授は「スポーツ庁は将来のオリンピックでメダルが期待できるスポーツの強化に力を入れてきました」と説明する。「2012年オリンピックでの銅メダル獲得によって、女子バレーボールチームは将来のメダル候補になりました。ブロックマシン構想は、外国の選手と比較すると身長が低い日本の女子選手が、普段から背の高い対戦相手と練習できるようにするために生まれたのです。」

筑波大学・岩田洋夫教授  @ ROB GILHOOLY PHOTO

岩田教授(62歳)によると、女子チームの監督である真鍋政義氏がテレビの人気番組でロボットのゴールキーパーを見て、それをバレーボールにも応用できないかと考えたことがきっかけでこのロボットのコンセプトが生まれたのだという。動作範囲が限られるキーパーロボットと比べると、真鍋監督の思い描いた仕掛けは何倍も複雑だった。

だが、日本の国立大学で最大のスポーツ学部を擁する筑波大学には、それに対応できる十分な設備が揃っていた。筑波大学はスポーツ庁のオリンピック強化イニシアチブ全体の技術開発の指揮を執っており、同大学での開発プロジェクトはこれだけではなかった。「最先端のマラソン用シューズや自転車レース用のペダルの開発など、筑波大学は様々な種目に関するプロジェクトを全部で60以上担っていました」と岩田教授は語る。

そして、ブロックマシンのロボット化は岩田教授に一任された。筑波大学の知能機能システム専攻の責任者であり、機械工学分野の専門家であるだけではなく、自らも選手や監督としてバレーボール経験があり、この競技への強い思い入れがある人物だ。

日々練習に取り組むメンバーたち  @ ROB GILHOOLY PHOTO

岩田教授が2013年に開発を始めた時の悩みは、参考にできる事例が何一つなかったことだった。「ただロボットを歩かせるだけでも大変なのに、95%以上の正確性と世界トップレベルのブロックができるロボットを作り出すのは、技術的に極めて難しい問題なんです」と彼は語る。「大学の研究室内では、それなりに高いパフォーマンスのものができます。しかし、練習の現場で、なおかつ研究者ではなくコーチや選手自身で運用できるものを作るというのはまた全く別の話で、さらに難しくなるわけです。

まず初歩的なハードルをクリアするために岩田教授が目をつけたのは、高さ8mのロボットに組み込まれた超強力駆動装置など、筑波大学で開発された既存の技術だった。スピードと耐久性を向上させるため、ほとんどの部品は航空機に使用できるレベルのアルミニウムで制作されたと岩田教授はいう。

彼は代表チームのアナリストや監督、コーチを含め日本バレーボール協会との議論を重ねた。その結果、端から端までを素早く移動できる3体の腕が装備された幅9m、高さ3.2mに上る装置が完成したのだ。

腕が装備されたブロックマシン  @ ROB GILHOOLY PHOTO

4方向の軸で動ける「自由度」や回転可能な「ジョイント」を持つことで、様々な角度に対応できる。それぞれの腕は独立しており、ひとつひとつ異なる高さで動くことが可能だ。機械式の土台と先端のプログラミング技術により、速さだけでなくスムーズな動きも実現した。

そして、アナリストが実際の試合から採集した膨大なデータベースを使って、基本的な動作パターンを増やしていった。これによってコーチがタブレット端末を操作するだけで、無数のブロックパターンを再現できるようになったのだ。

このロボット開発の成功は、日本バレーボール協会からの、男子チームでも使えるよう、より高身長の選手を模した装置を作ってほしい、というさらなる要望につながった。しかし、岩田教授にとって、ロボットの「稼働範囲」を広げること、この場合高さを40cm以上上げることは、より大きな挑戦状を叩きつけられたも同然であったという。

しかしその苦労は報われた――男子代表チームのアナリストである伊藤健士氏は、女男両方のチームの選手に成果が出ていると言う。ナショナルトレーニングセンターでの代表チームの練習に立ち会いながら、伊藤氏は、「ブロックマシンを使う最大の理由は、圧倒的に身長差のある対戦チームの選手と対峙した時に(中略)、選手がひるまないようになることにあります。」と説明した。

「このマシンのおかげで、選手たちから恐怖心が消えたのです。」

伊藤氏は、将来ブロックマシンが完全に自動化され、現実の試合環境をよりリアルに再現できるものになるよう望んでいる。

ロボットマシンのさらなる進化に期待する男子代表チームのアナリスト・伊藤氏  @ ROB GILHOOLY PHOTO

実際、自動化に向けて、岩田教授はコンピュータカメラを使ってボールが来る正確な位置に腕を移動させるための研究をすでに始めている。管理された環境下ではなんとか作動させられるものの、ナショナルトレーニングセンターでは練習用具や選手の服でさえも「ノイズ」として認識されてしまい、ボールの軌道を正確に捉えようとするカメラの動作を邪魔してしまう、と岩田教授は言う。

そして、「現在のブロックマシンは反復練習にはちょうど良いものの、実際の試合のようなより流動的な状況に瞬時に反応できるようにするには、ロボットの完全な自動化が必要です。この実現に向けて、私たちは今後も研究を続けていきます。」と語った。

ブロックマシンを使用した練習成果が見られる選手たち @ ROB GILHOOLY PHOTO

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